現状の外出自粛。命がかかることなので反対することがとても難しい。だが、敢えて言う。この方向は間違いであると。

社会とは様々な利害が錯綜し、拮抗し、すべての人が納得する事象など起こりえない。誰かの正義は別の誰かの悪である。それはほぼすべてのことで避けようのない現実だ。

日本では多少少なくなってきたとはいえ、今も自殺が絶えない。自殺の方法は様々だが、鉄道自殺はその方法の大きなひとつ。人身事故のために電車が停まる。本当に単なる事故もあるが、投身自殺もその中に含まれる。だが自殺とアナウンスされることはない。だが多くの人は知っている。あ、誰かが自殺したのかもな。そうは思っても、これからの予定が狂うかどうかの方が自分には重要なことで、舌打ちをしながら運転再開をイライラしながらホームで待つ。

人の命が何よりも最重要なのであれば、人身事故で電車が停まった時に舌打ちする人などいるはずがない。しかし実際には舌打ちが起きる。しない人もいるが、する人は確実にいる。どこかの他人の命より、自分のこれからのデートの方が優先順位に於いて高いのだということは普通にある。

人にはそれぞれ価値があり、それぞれの優先順位がある。理想とする社会像もひとりひとり違う。

しかしそれでは社会は成立しない。社会にはある程度の方向性が必要だし、ルールが必要だからだ。その方向性に従ったルールを決めるということは、その方向性に理想型を感じない人たちにとっては不都合なルールが決められるということ。自分に不都合なルールが決められるなんてたまったものじゃない。だが、誰かのたまったものじゃないを過度に尊重していくと、社会は方向性を失い、カオスに陥ってしまう。このルールを決める権限を誰が持つのか。かつては王侯貴族がその権限を持ち、その後武士や軍隊が握り、現在では多くの国々で選挙によって選ばれた代表者がその権限を期限付きで握る。その代表者の社会作りが人々に嫌われれば、期限が来た時にその権限を剥奪される。

この民主主義とよばれるシステムが有効な社会では、人々の代表者を選ぶ判断力が強く求められる。だが、社会が複雑になった今、どのような政策が実際に行なわれているのかをつぶさに知ることはなかなか難しい。表面上に現れるいくつかの目立ったルール作りを巡って判断して後悔したり、そもそも判断を放棄して選挙権を放棄することも多くなる。

さて、そんな前提の上で現下の新型コロナウィルスを巡る政治家の動きを見て、僕自身がどう感じているのか。いくつかの点で記しておきたい。

まず、緊急事態宣言と外出自粛、経済活動の自粛。これは大きな間違いを犯していると言わざるを得ない。なぜなら、外出自粛によって何を目指しているのか、そしてどのような目標を達成すれば自粛を解除出来るのかを明確にできていないからである。ある措置と、その措置の解除についてルール化されなければ、永遠に終わらないということも有り得るということだ。外出自粛とそれに伴う経済活動の自粛が永遠に続くということは、社会そのものの自死を意味することになる。それは社会を治めていく代表にとって最も避けなければならないことである。それなのに、とりあえず自粛ということだけを先行させ、自粛によって目指す状態と、自粛終了の具体的ゴールを置き去りにしている。そのことは、今のとりあえず政策によって社会が死ぬ可能性を否定しませんよと宣言しているに等しい。それは社会を統べる人としては失格以外の何物でもなかろう。

もちろん、野方図に外出して感染が広がって死者が莫大に出てもいいなどと言っているわけではない。莫大じゃなくとも少々の死者だって許容されないだろう。しかし、その数字が何人なのかというところに全員が同意する答は存在しない。ということは、社会を統べる人はその権限に於いて最大公約数となる数字を見出して社会構成者（市民／国民）に示さなければならない。それこそが代表者の使命であるはずだ。当然一部から反対が起きる。それはバッシングに発展するだろう。しかし最大公約数の社会構成者が容認できる数字を、結果を、未来予測を示すことで、次回選挙での多数支持につながるはずだ。同時に社会構成者の大多数が納得する方針でありルールとなる。

今回の状況に於いて、たったひとりの命も守りたいというお題目は美しく響く。反対する人には「命を粗末にしろというのか」という、反論しにくい決め台詞で議論をシャットアウトすることができる。現況の多くの知事たちは、その水戸黄門の印籠的なフワフワした決め台詞に頼り切って、自分に課せられているはずの決断から逃げているように感じられる。ライブハウスやパチンコ店のように明確に攻撃できる対象を作り出し、攻撃する形で自らの正当性を演出している。自粛はいいが、いつまでなんだと。その補償はどうするんだと。そういうことはあまり言わずに、外に出るなとだけ連呼する。それは頼もしく見えるかもしれないが、責任放棄に他ならない。責任ある政治家の態度とは、外出自粛や経済活動自粛をするのであれば、どのような状態になったらちゃんと解除するのかということを明確に言うことだ。それ無しには、単なる無責任でしかない。

そんなことを思っていたら、昨日辺りから急に9月入学にシフトすべきだということを言い出す知事がいきなり湧いてきた。わかりやすい論点をぶち上げることで、自粛についての責任放棄から人々の目を逸らせ、自分たちはちゃんと考えているというポーズをとっているに過ぎない。

確かに休校で学校に通えない子供たちの教育はきわめて深刻な問題に直面している。それについて何も考えないというのも無責任だ。だが、いきなりの9月入学シフトなど、実現するとはとても思えない。何よりもまず、9月になれば完全に終息して普通に学校に通えるということがどのくらいの確率でいえるのだろうか。その可能性もあるけれど、そうならない可能性も十分にある。5月に入るあたりから9月入学の準備をしたとして、4ヶ月ですべての準備が完了するというのも楽観的すぎるが、仮にできたとして、9月に終息してなかった場合はどうするのだ。アホすぎる。

準備をするとして、じゃあ9月入学だとして、その時に1学年を構成する子供たちは何月何日を基準に区切るのだ。現在は4月2日生まれから翌年4月1日生まれまでで1学年を構成している。9月入学の場合もそうなのか。それは考えにくい。9月2日から翌9月1日までで1学年を構成するのが普通だろう。だとすれば、現在の1学年を半分に分けるのか。それとも現在小学校1年生を4月2日〜翌4月1日とし、2020年9月から新学期を始め、2021年9月に入学するのは翌4月2日生まれ〜翌々9月1日生まれまでの1年半分の子供だとするのか。そうすると例年100人程度を新入生として受け入れている学校では150人程度を受け入れることになる。その場合教室を用意できるのか。教員数を用意できるのか。問題は山積みになる。それがたった4ヶ月で解決して実施できるなど、普通に考えて無理だとしか言いようが無い。

もちろん、長い視点で考えた時に十分な準備期間を経た上で9月入学に社会全体を移行させるということは有り得ない話ではない。僕自身は反対だけれども、それが社会に資するとして移行するプランを考え、実行に移すことを社会構成者の大多数が支持するのなら、そういう変革も有り得るだろう。だが今回の知事たちが言い出しているのはそういう長期的視野などではなく、ただの思いつきレベルに過ぎない。これまでに具体的なプランを検討してきて言っているというのであれば、具体的な話をすべきだが、そんなことを言っているわけではない。思いつきで大きな変革案をぶち上げ、どうせできやしないとわかっていながら自らの「何かしています」ポーズを示すために言っているのだとしたら（実際にそうだと思うが）、そんな人を政治家として、社会の代表として支持して選ぶということは、基本的に思いつきに振り回されるだけの不幸な時代を受け入れるということに過ぎない。

話を戻すと、現状の外出自粛＆経済活動自粛の動きは、東京マラソンの一般ランナー参加中止に始まっていると思われる。これが2月17日の話。北海道知事の緊急事態宣言が2月28日。小中学校の休校が3月2日から。五輪の延期決定が3月24日なので、東京マラソンと北海道緊急事態宣言、小中学校休校要請で、どのくらい国民が反発するのか、受け入れるのかを見定めたのだろう。そのための観測気球的な決定だったのではないかと思っているのだが、意外とすんなり受け入れた。マラソンの参加料を返金しないということもあっけなく受け入れた。小中学校もあっさりと休校した。これで国民の従順度を推し量ったのだろう。具体的な策もなく、緊急事態宣言を発して、まずは2週間、また2週間と、2週間といいつつのエンドレス自粛のまっただ中に日本はいる。その間医療の対応指針も次々と変わっていった。このまま、おそらく夏休みくらいまでは休校も自粛も続くだろうし、それ以上ということも十分にあり得る。なぜなら、「どうなったら自粛解除なのか」ということの明確な方針が何もないからだ。

おそらく、これ以上現金給付などできないというラインがやってくれば、感染の状況に関わらず自粛解除をするようになるだろう。それは、何年も何年もタンクを作り続けて溜めてきた原発事故汚染水を、タンクが足りなくなるという理由で海洋放出をしようというくらいだからだ。海洋放出における安全性などを専門家やその取り巻きの人たちが強調しているが、要はタンクを作り続けるのが難しいからだ。そんなに安全なのであれば事故後すぐから放出していればいいのに、やってない。それは、敷地の分くらいはタンクを作る必要がある程度には安全性に不安があったからで、タンクの亮に関わらず、安全性が変化するはずなど理論上は有り得ない。安全よりも経済を優先した方針に他ならない。

同じことは新型コロナウィルスでも起こる可能性が高い。経済的にもう無理となった時、自粛は解除されるだろう。僕個人の考えとしては、今の自粛さえ無駄だと思っている。経済的な損失と健康被害のバランスを考えた時、明らかに釣り合わないからだ。そしてワクチン開発にそこそこの時間が必要である以上、9月にワクチン接種が始まるなど有り得ないし、ウィルスの突然変異が起きる可能性も否定できない。だとすれば、9月から自粛解除できる可能性など論理的に導き出すことは不可能だ。しかし国民の経済的な側面と、心理的な側面とから、この自粛状況が6月まで続けられるとはとても思えない。だから、長くても6月半ばまでで緊急事態は解除されると予想している。それでも全国民が不安を完全に払拭できるのかというと無理だ。だからそのタイミングであらゆるメディアを通じた安全ムードの醸成が行なわれるだろう。

そろそろ寝ないといけないのでこの辺にするけれども、どうなることやら。あくまで私見でしかないのでそのつもりで。