議論をしてたら「対案を出せ」とかよく言われますよね。もっともらしい意見です。でも、その対案が、一部方向性が限定されたものを要求されていたらどうでしょうか。それは明らかに自分の土俵に持っていくための誘導です。ごもっともな体で相手を牽制して縛っていくための論法でしかありません。

簡単に言えば、詭弁です。

例えば、「オレはもう我慢ならないので、あいつを殺す。お前も手伝え」と言われたらどう言いますか？ 普通は「やめとけよ（人を殺すなんて良くない）。」でしょう。それが当たり前です。しかしそいつは続けます。「反対ばかりするな。対案を出せ」と。

いやいやいや、何の対案でしょうか。「やめとけ」が対案なのです。何かをすることだけが対案ではありません。「じゃあ殺さないのなら、どうやってこの怒りを収めればいいんだ？対案を出せ」と言われても、まっとうな答えは「やめとけ」だけでしょう。「殺さない程度に痛めつけろ」「そいつの車に10円玉で傷をつけろ」などというのはダメです。共犯になりかねません。

何かの案に反対する意見を表明するだけで、既に対案なのです。「何かする案A」に対して「何かする案B」や「何かする案C」を提示する必要など全くありません。何かをする前提で「対案を出せ」と言うのは、議論の誘導にすぎません。乗る必要は全くありません。

そういうの、最近では五輪反対の意見に対してよく浴びせられるようです。憲法改正論議でも使われます。でも、それらは基本的に反対論を封じるための論法でしかないので、五輪開催に反対する人も、憲法を変えたくない人も、その「対案を出せ」論には全く反応する必要はありません。

対案を出せが有効な場合もあります。それは、今まさに船が沈もうとするような時、「海に飛び込んで陸地まで泳ごう」という案を出したら「いや待てよ。もう少しこの船室でベストの案を考えよう」というようなことを言い出す人がいた時です。そのままでは沈没船して船室から出ることも出来ずに閉じ込められたまま溺死するのがわかっていてじっくり考えようとかはやっぱりダメで、だから対案を出せに意味があるわけです。

だからつまり、「対案を出せ」という人に対して反対が対案であることを説明し「反対以外の対案が必要となる、現状のままでは確実に破綻に至る理由と、破綻に至るまでの概算での期限はどのくらいであるのか」を要求すべきでしょう。それに答えられない場合は、「対案を出せ」には反対どころか、無視で十分でしょう。詭弁的言説にいちいち丁寧に対応してるほど、人間にとって無駄な時間はないのですから。

　誕生日です。誕生日くらいは何か書いた方が良いだろうって、musiplでは毎日のように何か書いている訳で、わざわざブログに書かなくてもよかろうとか思うし、そもそもこのブログの方がmusiplよりも圧倒的に読まれていないので、本当に書く意味は無いように思うんだけれど（それに書くべきこともそんなに無いので）、書かなきゃいいだろうと思うのは本心なんだけれども、一方で書いておきたいという欲求も本心なので、頑張って書いてみることにします。

　ある意味、これは元旦に行なう書き初めのようなものかもしれません（書き初めなんてこの52年間やったことは無いですけど）。

　ここ数年は子育てに忙しい、というか、子育てが楽しくて、というか、楽しいというよりは日常に完全に組み込まれていて、仕事場に行くついでに保育園に寄って送り、帰りの途中でついでに寄ってお迎えをする。その役割を与えられて、これはたいしたラッキーなことだなと思ったりしています。
　なぜラッキーなのかというと、子供の成長というのはとても面白いもので、送り迎えを基本的に僕が担当（奥さんが担当することも時々あります）するので、その往復の約1時間ほどは彼と完全な2人きりの時間で、そこで行なわれる会話に彼の成長が当然のように現れていて、聞いていて面白い。まるで太古の昔の神話の世界をリアルタイムで読み聞かせしてもらっているような気分になります。

　ああ、人はこうやって成長するのかということを感じつつ、では自分はどのように成長したのかということを思い出そうとするのですが、なかなかそれを思い出すことは難しいことです。そんなに小さな頃の記憶はほとんど無い。子供が生まれた頃に奥さんが僕の母に「どんな子供だったんですか」と聞いたことがあって、それは自分の子育ての参考にしようという想いがあったんだろうけれども、母は笑いながら「もう忘れたね〜」と言うばかり。大人として接してきた人が忘れているのだから、子供だった僕が覚えていないのも無理はありません。

　ここしばらく、会社の机でDVDを観られるようなセッティングにしたので、ついついSTAR WARS EP7を繰り返し繰り返し観ています。というか、流しつつ仕事しているだけなんだけれども。この映画は7作を通じて何が描かれているのかというと、結局は親子の物語なのだろうと思います。
　僕がEP7で好きなシーンを2つ。1つは、ハンソロが息子のベンにライトセーバーで刺し殺されて、まだ息がある最後に息子の右頬をなでるシーン。これ、わかるわあ。もし自分が息子に刺し殺されたとして、最後に何をするかというと頬を触る、頭をなでる、これでしょう。最後に何がしたいって、それしか無いじゃないですか。驚きの中で、死に往くことを理解して、最後に息子の頬をなでる。失意でもう2度と息子に会えないだろうと思っていた父親がこうして息子の顔を見ることができた。触れるほどに近くに行くことができた。たとえ死んだとしても、ハンソロは本望だったんじゃないでしょうか。改心させて母親の元に連れ戻せれば良かったのでしょうけれど、それは過度な望みだったのかもしれません。
　もうひとつは、完成した地図に従ってルークの元に会いに行くレイ。島の頂で彼のライトセーバーを渡そうとする。まだルークが手に取っていないところで映画は終わりますが、どうなるんでしょうね。レイの強いフォースから想像すれば、レイもまたルークの血筋なのかもしれません。それが謎解きを待たねばならないのは当然ですけど、レイを見つめるルークの表情が、最期のハンソロのそれと重なります。

　最近知人と話を重ねて、その中で、人は生きていく上で軸を持たなければいけないということを考えるようになりました。多くの人はそれを本当に持っているのだろうかと。仕事をしている人は仕事が自分の軸だと思い込みがちだし、専業主婦として生きている人は旦那の世話や子育てを自分の軸だと思い込みがちで、ではそれで本当に自分の人生なのだろうかということを、最近特に思います。
　仕事をしていて、でも突然リストラに遭うことがある。事業が頓挫して全てを失うことがある。旦那や子供が不慮の事故で死んでしまうこともある。そういう時に、人は自分の軸として思っていたものを失ってしまうわけで、その時にまともに立っていられるのだろうかと。過剰な競争主義は競争のために自己を見つめる時間を失うわけで、とりわけ子供時代にそれを失った人は、大人になった時に自分とは何かという軸を持ち得るのだろうかと、そんなことを思うわけです。
　僕は小さな人と毎日自転車で家と保育園の往復をしながら、この子に取って大切なことってなんだろうかと考えることが多くて、だからそれをどうやって彼に得させればいいのかと、そのために自分に出来ることは何なのかと。いや、いろいろ考えてますけど、それはここで公開するわけにはいきません。いきませんとも、ええ。

　でも、子供のことばかり考えていては、結局僕自身が自分の生きる軸のようなものを忘れていってしまうのではないかという危機感もあって、だって保育園との往復ができるのもあと2年半でしかなくて、その後も保護者として責任はあるものの、小学校の登下校を一緒にというわけにはいきません。そしてやがて成人した暁には、基本的に彼は彼の人生を歩み始めるわけで、取り残された僕や奥さんは、夫婦として一緒に暮らしつつもそれぞれ自分の人生をちゃんと持たなければダメなのでしょうし。

　そんなことを考える52歳の誕生日です。午前中で仕事はあらかた終わりにして、京都観光にふらふらと出かけようかと思います。そしていつもより早めに保育園にお迎えに行く予定。なぜかって？ 息子によれば「今日はお父さんの誕生日なのでケーキを買いに行かなければならない」のだそうです。だからその時間を作るために早めにお迎えに行って、帰りにどこかのケーキ屋さんに寄らなければならないのだそうです。ええ、ケーキ代は僕が出すんですけどね。そして一番たくさん食べるのは彼なんですけどね。ケーキの食べ過ぎで晩ご飯が食べられな〜いと駄々こねなければいいんですけども、はい。