朝目覚めて、何時だろうかとiPhoneに手を伸ばすと、なんかの通知機能がまず画面に現れて、facebookで誰が何と投稿しているよというのと一緒に、僕の昨日の歩いた歩数は1128歩だと教えてくれる。ええっ、そんな馬鹿な、その程度しか歩いていないのかと愕然とする。だったらこの蓄積されている疲労感は一体何なんだと思い返してみると、100km以上移動してきた割に、そのほとんどは電車かバスに乗っていたわけで、よくよく考えれば1128歩程度しか歩いていないというのはそういうものかもなあと頷けます。

　移動に同行してきた息子3歳11ヶ月は昨朝自分のリュックを背負って行くのだと主張し、出来るだけその中身を軽くしておこうという親の企みに気づいたか「重い方がいいの」とへんてこな主張をし、きかないので言う通りにそこそこ重くしてあげたら、家からバス停に行き、バスで京都駅に着いて近鉄電車のホームに、というより駅建物に立ち入る前の段階で「重くて歩けない〜」といってお父さん（僕）に抱っこを要求する始末。重い方が良いのだというから重くしてあげたリュックを追加で持った上に17kgを抱きかかえて歩いたりするものですから、1128歩程度のウォーキングですら疲労が蓄積されるのも、致し方ないということでしょう。

　別に息子を非難するつもりは無くて、というのも前日の土曜日には保育園で春の運動会があり、といってもせいぜい2種目の、おゆうぎとかけっこに出ただけなのだけど、それでも一生懸命やらねばという思いで取り組んでいたらしく、保育園に向かう自転車の道中に「もう今年は泣かない。あれはもも組さんの時だけ」と宣言し、その通りに泣かずに運動会を頑張っていた。一昨年の運動会では他の子どもがギャン泣きしてる中ケロッとした顔つきでおゆうぎをこなしていた息子が、昨年は他の子どもがケロッとしている中１人ギャン泣きしていて、「ああ、全園児の中でもっとも大きな声で泣き続けているぞ、息子パワフルでよろしい」と親バカを発揮させてくれたわけだが、それが自分でも恥ずかしかったと思っているらしく、今年は泣かない宣言をし、僕が向けるカメラに向かってピースサインを出す余裕。おお、成長しとるぞと感心するまたもや違う種類の親バカ感想を引き出してくれるわけだけれども、まあ、それも彼なりに気張って頑張った、そういう証拠なのだろうと思うし、だから、翌朝日曜に早く起こされて重い荷物を持ち得なくとも、それもまあ仕方ないよとすぐに許して抱きかかえてあげ、やっぱり親バカ、いやバカ親だなあと。息子はそんなバカ親に「かわいい子どもを抱っこする喜び」を与えてくれる、優しいやつだからいいのです。

　あとどのくらいこうやってこの子を抱っこして歩いたりできるのだろうと、そんなことを考えます、毎日。重いけど既に。

　祖父母実家に到着して、道中は重いとか疲れたとか言ってた息子が、自宅マンションより明らかに広い祖父母実家の部屋や廊下を走り回って、おいおいどこにそんな元気が残っているんだ、その元気を移動の時に使えば良いじゃないかと思うし、祖母も「疲れないのかねえ」と呆れていた様子だけれど、その呆れ方も愛情のこもった、親バカとは違う種類の祖母バカ方式なので、無駄なエネルギーの消費を止めようとせず、むしろ失われたエネルギーを補給させるために不必要なまでのおやつをあげようとするから、息子の暴走は余計に止まらないのではないでしょうか。いいのですけど。

　そんな息子、8時半すぎに突然ゼンマイが切れたようにことりと寝てしまい、今に至るまでまるで起きず。その熟睡パワーにも若さを感じます。いつもは寝ながらごろんごろんとお父さんの側にやってきてはお父さんの睡眠を邪魔する息子が、今日に限ってお母さん側に寄り添うようにしてて、案の定なにも掛けてない状態で縮こまっているので、いつものようにタオルケットを掛けたりする、そんな朝です。みなさんいかがおすごしでしょうか。

　そうそう、昼前に到着した京都駅で、なにか食べてから電車に乗ろうかと、息子が最近食べるようになったラーメンを提案したら「うん、食べる」と言うから、京都駅にあるという拉麺小路に行ってみたところ、息子突然怒りだして「早く近鉄に乗る！」と言い張って、お父さんお母さんは拉麺を諦め、キオスク的なところで買ったおにぎりを電車の中で頬張るということになり、残念な気持ちにはなったものの、それもまた家族の良い記憶になるのでしょう。自分の人生を振り返っても、予定通りにうまくいったことなんかはほとんど覚えていないわけで、頓珍漢な出来事や、ああ、アレは失敗したなということしか覚えてはいないのですから。まあもちろん、失敗とハプニングの連続の人生でしかないので、普通なら覚えているであろう「予定通りにうまくいったこと」がそもそも存在していなかったのではないかという疑問はあるわけですが。

　電車やバスに揺られ、徒歩移動の区間までお父さんに抱っこされていた息子の方が、きっと昨日の歩数は多いのでしょう。きっとダブルスコアくらいでたくさん歩いて（走って）いるのでしょう。なんか、理不尽なことです。

風邪をひきました。そのせいで体調すぐれないけれど、保育園への送り迎えは僕の仕事。朝ご飯が終わると自転車に乗って保育園に向かいます。

土曜日にはお出かけの予定を入れているので、今日はもう出来るだけ余計なエネルギーを使わずに、体調を復活させることに努めたい。なので、保育園関連でもできれば省エネモードで行きたい。保育園に到着すると門のところで自転車を停め、息子を降ろす。昨年度までは門のところから玄関までお父さんと手をつないで行くことをせがんでいたのだが、ひとつおにいちゃんのクラスになったら門のところでバイバイしようねと約束をしてて、4月になってからは本当に門から１人で歩いていけるようになってお父さんはびっくらこいた。嬉しいけど、驚き。ところが5月の連休後、骨折してずっとバスだったお父さんが自転車で行けるようになり、それもあるし連休で気持ちが緩んだこともあり、息子はまた門から玄関まで一緒についてこいとせがむようになった。

でも、今日はそういう諸々の動きを省エネモードにしたいし、息子の再成長も促したいし、保育園までの道中、「おとうさん出来るだけ風邪治して土曜日のお出かけに行けるように頑張るから、○○ちゃんも応援してな。保育園で門のところから１人で歩いていってくれたら、お父さん助かるな」などと何度も話してみる。でも「そんなこと言わないで」と抵抗される。ああ、これは無理かなと思っていたら「月曜日からは門でバイバイできる」という言葉が出てきた。マジかよ。ん〜、それは今日のお父さんの無駄エネルギー回避にはまったく役に立たんけれども、それでも月曜日からの成長があるならそれはそれで悪くない。

それにしてもあの門と玄関の間には何があるのだろうか。玄関では先生に促されて「お父さん行ってらっしゃーい」と手を振ることができるのだ。だったら門でそれをやってもよかろう。何が違うのか。とても興味深いけれども、答えは出ない。

月曜日から本当に門でバイバイできるのだろうか。いやあ、無理だろうな。でも約1ヶ月後の彼の4歳の誕生日以降は「おにいちゃんになる」のだから、門でバイバイできるという約束を以前からしてあるので、そっちに期待したいところだ。

息子は最近よく怒りを表す。一昔前の怒りは単にお腹すいたや眠たいでしかなく、無論今もその怒りは日に何度も表すのだが、最近特徴的な怒りは、「違う、そうじゃない」だ。

バスに乗っていて「あれ何？」と聞いてくる。あれ、とは何だろう。息子は指を差す。だがその不安定な指差しでは何を聞いているのかはわからないことも多い。何？何？何を聞いてるの？と聞き返す。お父さんに自分の言ってることが伝わっていない。息子は「あれーっ！」と怒りを表す。だがやはりあれではわからない。伝わらない。

何色のやつ？何のとなり？丸？四角？いろんなヒントを手掛かりにしようと問い返す。それで伝わることもあるし、やはり伝わらないこともある。

大人なら、言葉で伝えたい何かをより具体的に表現して伝えようとする。だが3歳児にはその技術も語彙も足りない。だから癇癪を起こす。お父さんだから普段からの彼の関心や彼だけの言葉のクセも知っている。なにより、彼のことを理解したいと、コミュニケーションしたいと願っている。それでも通じないものは通じない。こちらからのアシストと、彼の側の熱意とでコミュニケーションはどうにかこうにか続いていく。

僕は、この珍道中的コミュニケーションがとても良いと感じている。彼の怒りは、バスの中では少し困るけど、困るからといって押し黙られる方がもっと困る。彼の怒りは、伝えたいという欲求。わかってもらいたいという欲求だから。その欲求があるから、人は成長する。誰かに何かを伝えたいから言葉を覚える。高度な表現を修得しようとする。伝わらない時、「もういいや」と諦めてしまっては成長はそこで止まる。もう少し大きくなったら、そこに悔しさという感情が加わるだろう。でも今は、怒りで十分。その怒りこそが表現力の源泉。それ以外に向上のヒントは無い。怒ってくれるのは、ありがたいことだ。大人の社会性を優先して、小さい人の向上の糸口を殺してはいけない。たとえバスの中で多くの乗客に煩がられても、子供の伝えたいという気持ちを諦めさせてはいけない。仮に誰かが文句を言ってきたとして、その時に盾となるのが親の役割だろう。だが、直接文句を言ってくる他人はなかなかいない。子供の気持ちを諦めさせるのは、ほとんどの場合、社会的に体裁を保ちたいという親のエゴなのだろう。その気持ちはもちろん僕にもある。静かにしてくれてればどんなに楽だろうと思うことは少なくない。でも、それと引き換えに彼が失うものの大きさを考えれば、日々の社会的体裁などなんと小さな自己満足なのだろう。

ということを、自分に常に言い聞かせたい。見知らぬ誰かのせいにして自分の一時的な平穏のために子供の口を封じることは、子供の表現力を奪い、向上心を奪うのだと。