秘密保全法については先週末に可決して以来いろいろともう語られ尽くされているだろうからもう書く意味あるのかという気もするが、かといって触れずにいられる問題でもない。だから、遅まきながら書いてみる。というか、実は何回も書いては消したのだ。どうにも上手いこと書けなくて。何度書いても解説のような文章になってしまって。しかも法律の専門家でもない解説に何の意味があるのかと。なので今回もそうなる可能性はあるけれど、とりあえず書く。それが今の時代に生きる日本人として大切なことだと思うから。

　秘密保全法の趣旨は、国家には機密というものがあって、それを漏らしたらいけないよ、法で厳しく罰するよ、というものである。それには異論はない。昨年だか一昨年だったかの海上保安庁職員の動画公開などはそれに当たる。あれは厳しく罰せられるべきだと僕は思う。だがそんなに罰せられた形跡はない。

　だから法整備するよというのなら、それはそれでいいと思う。だが、今回の法律はやり過ぎだ。治安維持法の再来だと騒がれているが、それも当然だ。やり過ぎで、同時に作り込みの足りなさ。曖昧な部分がたくさんある。大臣の答弁が二転三転する。それで国民に罰則を与えるとは、テキトウにもほどがある。

　例え話で進めたい。信号無視はいいことだろうか？違うね。いいことではない。信号無視をお巡りさんに見つかったら怒られる。車やバイクでそれをやったら切符切られて罰金だ。いけないよ、まったくいけないことだ。

　だがそれが成立するのは、街に信号が設置されていて、赤だの青だの点灯するからだ。秘密保全法の難しいところは、街に信号らしきものがなくて、何の気無しに渡ると捕まり「今信号無視しただろ」と言われてしまう点である。仮に信号があっても、その信号のライト部分には黒い覆いがされている。それで渡ると「信号無視」だ。たまったものじゃない。それでは法律違反の意識もない人が簡単に取り締まられてしまう。そんな大権を警察や検察に与えるようなものだ。この法律は完全に勇み足だと僕は思う。

　とても不思議なのは、取り締まる側はそれが「秘密」であることを知っているのだろうか。知らなければ取り締まれないだろう。秘密である以上、それをどこまで知っていいのか。取り締まるとなるとそれなりの人数が捜査に当たる。その捜査に当たる人たち、末端の警官までもが国家の秘密を知って捜査に当たれるのか。ではごく一部の人たちだけがその秘密を知り、末端の捜査官は理由もよく知らずに逮捕をするのか。礼状はあるのか。その礼状には具体的な罪状も記されず「国家機密を知ったから」という曖昧なことが書かれているのか。その礼状を出す裁判所は秘密を知って礼状を出すのか。それとも知らずに捜査機関の言いなりになって礼状を発行するのか。そういうことを考えていくと本当に混沌としてきて、だから「危ない橋は渡らない」から「危ない橋には近寄らない」ということ以外になくなってしまう。では、その「危ない橋」はどこにあるのか。それは誰にも判らないのだ。秘密なのだから。

　大臣や総理が言うように、常識的に考えれば一部のテロリストを取り締まるための法律であって一般市民には影響はないということだろう。だが、この法律は大権である。大権を持つと人は変わる。ましてや今の権力者が持っている自制を10年後20年後の権力者が同じように持つ保証は無い。政界を引退した古賀誠や野中広務ら元幹事長たちがそろってこの法律の危険性に言及している。どちらが正しいではなく、権力の座にある人の意識や常識は時代によって変化するということだ。10年後にどんな人がその座にあるのか。その人がどのように考えるのかによって、大権は振るわれ方が変わってくる。危ない橋がどこにあるのかわからないで近寄った人が突然逮捕される。そして昨日まで普通の善人だった人に、逮捕後には「危険なテロリスト」のレッテルが貼られる。貼られてしまったら、そりゃあ逮捕されるのも仕方ないよなという世論に飲み込まれてしまう。

　そんなこと言っていたら、国家機密を守ることなんて出来ないだろう、海上保安庁職員の行為を罰せられないだろうと言われそうだ。確かにそうなのである。それを防ぎ罰する法整備は必要なのだ。だからこそ、もう少し慎重で丁寧な進め方が必要だったのではないかと思う。そして、国家機密を守るための法整備よりも、民主主義を守るための抵抗運動の方に、僕はより近い立場であり、気持ちでもあるのだ。

　今更言っても詮無いことなのかもしれないけれども。