まだ暑かった夏の午後、近所の公園に息子と出かけた。わりと広い、とはいっても一隅から公園全体が見渡せるそこは、例えていえば福岡の大濠公園みたいな規模ではなく、その中にあるクジラ公園の2.5倍程度の広さです。

　その公園の立木の下という下の、有り体に言えば木陰の、要するに盛夏の屋外でもっとも涼しく過ごせる場所に、ワンタッチで広げられるテントが立ち並んでいた。

　テントが？ なんでだ？ まあ僕ら父子はサッカーボールの蹴りっこをしに来たのであまり影響はないのだけれど、木陰で休んで読書でもしようという人にとっては、そのテント群はたいそう邪魔だっただろうと思うし、ボールの蹴りっこをしにきてた僕らが、3歳児の消耗を気にかけて水筒のお茶を飲ませようとひと休みする場所も直射日光の炎天下にならざるを得ないので、ああ、この場所からは早急に離れなければいけないのだなと直感的に感じたのだった。

　みんなが遊びに来る公園の一画でテントを張る。そんなテントが立ち並ぶ。その光景は郊外に整備されるニュータウンの、どれも同じな新築建売一戸建ての群れを思い起こさせたのです。

　アメリカの西部開拓史というのは、一応先住民がいただろうけどそんなの無視してマカロニウエスタンな大地に馬車でやってきたアメリカ人たちが勝手に木を切って家を建てて住みはじめ、近くの荒野を耕して作物を作り、町が出来ていく。その町に家を建て遅れた人たちはまた西に行って誰もいない荒野に勝手に家を建てる。家が建っちゃったらもうそこを「なんでお前の土地なんだ」と言って取り上げるわけにもいかず、だってそうでしょ、土地が欲しい人はもっと西に行けよ早い者勝ちだよ、ここでグダグダ言ってる間に他のヤツにとられちゃうよ、と言われたら、慌てて西にいくのが常識というもの。斯くして勝手に土地を自分のものだ宣言して家建てた人がそこを自分の土地として所有し、孫子の代までその場所を疑うことなく自分の土地として生きている。

　京都には創業数百年という老舗がゴロゴロしているが、794ウグイス平安京遷都以前には土着の豪族秦氏が住んでて、でもそこに天皇家がやってきて暮らすようになってきた。京都御苑はだだっ広いけれど、そこは750年頃には誰の土地だったのでしょう。ましてや、創業数百年の老舗の店舗兼住宅の土地は、750年頃には誰の土地だったのでしょう。

　その後（かなり端折るが）も「ここは俺の土地だ」と言いたい人がたくさん現れて、でも誰もいない荒野ではなくなっている以上、誰かが「いいや、ここは俺の土地だよ」と言うわけで、だったらその「俺の土地だ」と言っている人や家族を皆殺しにしてその土地を奪うか、それが出来ないのなら、然るべき金額を積んで、どうぞこれで譲ってくださいといってお願いをする。いいや売らない、ナンボ金を積まれても売りませんという頑固な人もいれば、「いくらでっか？ン億？よろし、売りまひょ」的なことで解決することもある。

　公園のテントの場所も、すごく良いところからちょっとはずれのところまでいろいろで、あとからやってきた家族には選択する権限などまったく無いのだけれども、金の力にものを言わせて「すみません、ここにうちもテント立てたいんですけど、おたくが先にいらっしゃるので立てられません。大変不躾なことを申して相済みませんが、5万円お支払いいたしますので、この場所をお譲りいただけませんでしょうか」と交渉すれば、立ち退いてくれる人は沢山いるのではないだろうか。どうせ4時の閉園時間には立ち退かなければならないのだし。

　そんなこんなで、日本の人は自分の家を持つために法外な金額を支払ったり、35年も借金に縛られることを覚悟したりするわけですが、そこにその億的な金額を支払う理由は何なのかと。また、そうまでして地球上の土地の一画を手に入れることが、美しい日本的なステキなことなのかと、休日の公園で考えたりしたのです。いや、家持ってないけどね。誰かがくれるというのならもらうけどね。でも、みんなの憩いの場である公園に、テントという形で占有スペースを確保することが、なんかちょっと不遜な暴力行為にも感じたものですから、つい。