2016年のさくらは格別だった。何故か？見ていないからである。

2月の終わりに事故に遭い、足を骨折。回復はしてきているものの、今も松葉杖。保育園への送り迎えや、出社に通院など、必要な移動はするけれど、それ以外に向かう元気や時間的余裕はない。仕事となれば東京や神戸にも遠出したが、京都の桜を見るためにちょっと寄り道、それが出来ない。

骨折のおかげで移動手段が自転車ではなくバスになっていることも大きい。自転車だとつーっと移動する間にいろいろな桜が目に入る。気になれば止まって眺めることもできる。しかし、バスではそうはいかない。車窓からの桜では、花びらのひとつひとつを感じることなど出来はしない。

京都に暮らすようになって、桜の季節は楽しみのひとつだった。木に花に貴賎は無いはずなのに、京都の桜を上質と思い込みがち。SNSに現れる他の地域の桜の花を見ては「ふっ、京都の桜ほとではないな」なんて気になる。愚かである。だが今年は自分が桜見物に赴けない。友人たちが京都に来ては撮った桜の写真をアップするのを見て、ああ、あの桜はもうこんなに咲いているのかと確認する。羨ましい。京都以外の桜もたくさんアップされる。例年ならば「ふっ、京都の桜とは比べ物にならんな」と感じていたはずの桜がとても羨ましい。

何故なんだろう。何故そんなに羨ましいのだろうか。

いろいろ考えて至った結論としては、桜を見るというのは、季節の到来を感じることのワクワク感に他ならないということ。自分はそれを感じられないのに、みんなは桜を愛でている。春を感じていると。羨ましい。ああ羨ましい。京都の桜を上質と思い込み、それを見てるから、他地域の桜を「けっ」と考えていたのだが、実は今自分がいる場所に春を感じられるのは京都の桜しかないわけで、他の地域の桜に自分が春を感じられるはずもなく、だから「けっ」でしかなかったのだろう。なのに今年は自分が現場で春を感じられずにいて、でも日本中でみんなが桜で春を感じでいる。ちくしょう、である。羨ましい。至る所のそこここでみんなが春を感じている。羨ましい。別に目黒川の桜なんて見たくもない。どんなに豪奢であっても、見たくもない。だが、その近辺の人たちが確実に桜を見ては春を感じている。それは羨ましい。要するに、僕は春を感じたかったのである。

この週末に京都には雨が降った。花散らしの雨になったのだろうか。SNSでも見納めなどの言葉が踊る。ああ、今年は桜をちゃんと見ることは出来ないのだな。仕方ない。慌てて京都御苑に行くわけにもいかない。松葉杖で砂利道を歩くのは本当に大変なのだ。

桜を見ないことで、桜の意味を知る。今年のさくらは格別だったな。