東京マラソンの一般ランナーレースの中止はあまりに唐突だったが、その影響はとても大きかった。日本でも最大規模のマラソンレースが中止になったことで、他のマラソンイベントは影響を受けることになる。中止しやすい環境ができた、というか、圧力を受けやすくなった。

東京マラソンには3万人を超えるランナーが参加する予定だった。その中に数人新型コロナ感染者がいたらどうする、という気持ちはわからないではない。だが、マラソンを中止すれば感染拡大を防げるのだろうか。そうではないだろう。3万人どころか、東京で都心のオフィスに勤務しているサラリーマンは数百万人単位だ。ショップ店員レストラン店員も含めれば数千万単位になる。そういう人たちが日々通勤して、勤務している。それを放置してマラソンだけ止めれば感染拡大できるというのは論理として成り立たない。だから、東京マラソンの一般ランナー中止というのは、シンボル的な意味合いでしかない。

これから多くのイベントが中止に向かう。今はサッカーも野球も中止の予定は無いようだが、なぜそういった競技は中止にならないのか。そういう声が挙がらないとは言い切れない。声が上がった場合、サッカー団体、野球団体は抗しきれるのだろうか。マラソンが軒並み中止で選抜高校野球が実施の理由は何なんだろうか。そういう声が大きくなれば、選抜高校野球は中止されるのだろうか。

個人的には、この感染拡大はそう簡単に封じ込められないと思っている。それが可能ならインフルエンザが毎年流行するはずがない。人が社会の中で生きている以上ウィルスの流行は止められない。それを前提にしていかないと、社会活動を阻害する過剰な反応が沸き起こるだろうし、マスクなしでの咳込みを罵倒するような事態も増えていくだろう。おかしな話だ。だが、絶対に感染してはいけないということを前提にしてしまえば、そういうモードが広がっていくのは避けられない。

もちろん、感染して重篤化して亡くなる人が出てくることを構わないと言っているのではない。そこは間違ってはならない。しかし、そのために感染を完全に封じ込めるという方法論に傾くことで、絶対にできないことに向かうという不毛な消耗戦に突入していってしまうのではないかと思うのだ。ある意味、竹槍で戦闘機に向かっていく的な無謀さ。それを危惧している。

いずれにしても、はやく沈静化してほしいとは思うのだが、それは人々の行動を制限していくことによって達成するのではなく、治療法や特効薬の開発、確率によって達成されるのだろう。それ以外のことは、中世の祈祷だったり、疫病退散のための祭だったりと同じ程度の効果しか持たないのではないだろうか。