昨夜のニュースを聞いて耳を疑った。例の新型コロナウィルスで、専門家会議が「若者が感染拡大の可能性」と発表したというのだ。

【報ステ】専門家会議「若者が感染拡大の可能性」

北海道で感染者が拡大しているのは、「若い人は感染しても症状が出づらいため、感染に気付かないまま、他の人に移している可能性がある」からだと。

何を言っているのだ？

この会見で、10代〜30代はあらゆる外出に後ろ暗い気持ちを抱くことになるし、場合によっては後ろ指をさされる可能性が出てくる。40代以上はそういうことを感じる必要は出てこない（自主的に感じる場合はあるだろうが、それは会見とは関係ない）。なぜ若者にばかりそのような負い目を負わせることを平気で言うのだろうか？

そもそも、日本で感染が拡大するひとつの大きなきっかけとなったのはクルーズ船だ。クルーズ船に乗って優雅な旅をしているのは主にどの層だ？ 退職後にそこそこ自由に使えるお金を持っている高齢者世代だ。若者にも勝ち組と言われる富裕層がいるのはもちろんだが、絶対数としては少ないし、彼らが富裕になるためには懸命に働く必要があるのであって、優雅に旅をしているヒマはない。結果的に高齢者富裕層がクルーズ船の顧客である。もちろん彼らがクルーズ船で旅をした中で感染したことの責任などはない。だが、事実として高齢者がクルーズ船で旅をして、その中で感染したことを受けて国がその船と乗客に対してどのように感染防止対策を策定し実施したのかに大きな責任はある。その防止対策の策定と実施に関わったのは10代〜30代ではあるまい。50代〜60代あたりが具体的作業と決定を行なっている。その対策実施の中で乗客たちを次々と下船させ、下船した人たちが公共交通機関を使って帰宅し、帰宅後に陽性になったりしている。現象として、高齢者が優雅な旅の中で感染し、高齢者がその対策を考え、対策に従ってその後陽性になる人たちが公共交通機関を使って帰宅している。全部高齢者じゃないか。そこに若者の関与はどのくらいあるというのだ。

何度も断っておくが、だから高齢者に罪があると言っているのではない。感染した人に罪はないし、感性防止対策をした人が悪意で感染を広げるような策を考えたわけではないし、単に下船させられた人が国からハイヤーを用意されていなければ公共交通機関で帰宅するのは当たり前のことだ。彼らの中に罪がある人たちなどいない。だから彼らに対して「お前らが感染拡大させたんだ」と言うのは、あらゆる観点から見て酷い暴言でしかない。

だとしたら、だからこそ、感染拡大の原因が若者にあるということも、酷い暴言でしかないのである。

ここ1〜2週間が瀬戸際だから、換気のされない閉鎖的空間には年齢関係なく行くなと言えば済むことである。なぜそこに10代〜30代の若者に限定して行動自粛要請に等しい会見をするのかが理解できない。

今朝も自転車で移動していたら、とあるスーパーの開店時間を待つ人たちが大勢列を作っていた。全員高齢者だった。まあ若者は職場に出勤したりしているだろうから、朝からスーパーの開店に並ぶなんてことはしないだろう。だが、高齢者はヒマなのか、スーパーの開店を並んで待っている。いいのだ。別に並んだっていいのだ。人が何やろうと自由なのだ。ただ、そうやって高齢者も外出するし、人が集まるところに行ったりする。別に若者だけの話ではない。

若者も外出する。高齢者も外出する。だったら、全員外出を控えよう、でいいじゃないか。単純に外出を控えればいいということではないと思うし、そんな単純な策で押さえ込めるとは思わないけれど、1000歩譲って外出を控えるべきなら、老若男女問わず「外出を控えよう」と言えば公平だし平等だ。それを「若者が感染を拡大させた可能性」ということと「外出を控えて欲しい」ということとをセットで言うことによって、若者にだけ負い目や負担を背負わせようというところに、格差社会の根本原因があるように感じられてならない。

現在若者の多くは将来年金をもらえるとは思っていない。思っていないのに現在の高齢者のために年金を払い続けている。そして若者の多くが裕福な暮らしから遠ざかっている。一方で終身雇用と専業主婦（即ち共働きせずとも家族が暮らしていける）を成立させていた給与水準に守られていた人たちが年金でクルーズ船にも乗れる優雅な暮らしをしている。そういう人たちが都心に買ったマンションで静かに暮らしたいという欲求のために、地域に保育園を新設することが難しいという状況も生まれたりするし、夫婦共働き必須の世代が子どもを預ける先を見つけられないことが理由で妻だけが離職しなければならなくなったり、そもそも子どもを持つことを諦めたりしている。

こういう状況を見るに、高齢者が守られるために若者世代に多大な皺寄せがされていると言ってもけっして過言じゃないだろう。日常的に高齢者のツケを若者世代が払わされている社会なのだ。そのうえ、新型コロナウィルスの感染拡大まで若者のせいにされるのか、と思う。なぜこの国は若者を必要以上に根拠のない理由で虐げようとするのだろうか。会見をおこなった専門社会議の高齢者たちも、悪意を持って若者世代を虐げようとなど考えてはいないだろう。だが、差別や虐げというのはそもそもそういうベースの上に成立するものなのだ。人種差別も女性蔑視も、している人自身はそれが差別や蔑視だとはまったく気付いていないことがほとんどだ。だから、その差別や蔑視を続けていいのだろうか。いや、ダメだろうまったく。だから、その発言や考え方が差別的だということを、その人自身が学ぶ必要があるし、周囲は彼らが気づくために指摘をするべきだと思うのだ。

高齢者世代は、若者世代のことを虐げるな。自分自身のちょっとした行動や発言や思考そのものに、若者への蔑視や差別や虐げはないのかを、常に自問自答すべきだ。その観点からみて、昨日の専門家会議の会見はそこはかとなくかつ確実な若者虐待的なものでしかなかったと指摘したいし、そのことを自分は公平な人間であると思いたい人は理解すべきである。