311がやってきた。911の10年後の時にテレビはWTCの映像をまた流して、アメリカ人の価値観は変わったとやってたのを思い出す。あのとき既に311の後で、僕らの価値観も311を境に変わったはずで、僕も変わったと思っていたが、じゃあ3年が経った今そのことをどう感じているのかというと、やはり変わったことには間違いないけれども、311の半年後に感じていた価値観の変化とはまた違った種類の変化を感じている。

　それは、汐が退いた後の浜辺のようなもの。満潮になった時には乾いた砂も水の底になるわけで、それは価値観の変化というよりも環境の変化そのものであって、だから感じ方が違っていても当然だ。しかし満潮になって、その後干潮で汐が退き、また以前のように砂は乾くのだけど、前回と同じ風景ではない。雑に見れば同じようなものだが、よく見るとまったく違う砂浜がそこには現出している。そんな感じの、延長線上のパラレル感だ。

　僕は京都に移り住み、今もレコードレーベルの仕事をしつつ、musipl.comという音楽情報サイトを運営したりしている。そこでは毎日音楽を紹介しているのだが、今日、3年後の311に僕は全く新しい音楽を紹介することを一旦休み、エレファントカシマシの『悲しみの果て』という曲についてレビューした。レビュー内容はそのサイトを見てもらえればと思うが、そのライブ映像は2009年のものであり、だから、311前のエレカシのパフォーマンスなのだ。

　歌というのは面白いと思った。それは311前の歌でありパフォーマンスで、だから宮本は311のことなど知らずに歌っている。だがそれを見るこちら側は311後の人間で、だからその歌に音に、311の幻影を伴ってついつい見てしまう。作者の意図などなかったかのように、こちら側の感想を付加されていく。芸術は、芸能は、ただそこにあるから価値があるのではなく、見る側聴く側が感情を託することで価値が生まれる。だからその価値は千差万別で、時とともに時代背景とともに変わっていって当然だ。

　僕はこの曲を311前にも知っていた。その時どんな感想を持って聴いたのか、今となってはもう思い出せない。今よりももっと浮かれていたのだろうか。浮かれていたから感じられたこと、浮かれていたから感じられなかったこと。多分両方だ。それはある意味バブル時代を体験した世代が感じることと、バブルを知らない世代が感じることとにも違いがあって、もしかしたら311前と後に見える風景が違うのであれば、それは若い世代と自分の世代に見える風景もまたそのくらいの違いがあるんじゃないかということも感じたりする。当然戦前の若者が見ていた世界と戦後世代の見え方も違うのだろう。

　すべてが同じである必要はない。現状に対応していくしか生きる道は無いのだ。誰かの価値を別の誰かに押し付けることほど、無謀で無意味なことは無い。ただ、3年と1日前に感じていたものと今のそれとが違うということをまず認識出来れば、多様な光景の存在を理解することも出来るかもしれない。それが他者を理解するということの出発点だし、そのことを認識出来ただけでも、311の収穫としなければならないのかもしれない。にしては、争いの様相は日に日に増してきているようで、311は何の変化も与えてこなかったのかなと、ちょっとだけ凹んだりすることも日々多々あるとは感じている。