今でも会ってみたいなと思う友達はみつながくんだ。みつながくんというのは保育園時代の友達で、よく遊んだ。あの頃のことはほとんど覚えてないんだけれども、彼のお母さんがやっていた美容院に遊びに行ってた時の光景は今でもカラーで思い出せる。そのお店には毛の長い猫が何匹かいて、動物のことは好きではなかったんだけれど、だから猫がいる場所になんて行きたくなかったんだけれど、その美容院には何度も行った。親友がいるところだから、当然だ。

　みつながくんは、お母さんが癌になり、ほどなく亡くなった。保育園の卒園式には病気を押して出席されてたと後に僕の母から聞いた。だから、保育園の間はずっと友達だったのだろう。でも小学校の校区が違っていたのでやがて疎遠に。気づいたら美容院は閉店していた。僕とみつながくんをつなぐ糸は永遠に切れたままになった。

　その後どうしているんだろうか。生きていれば彼も51歳。オッサンだろう。もし仮に今会えたとしても、何を話せばいいのかなんてわからない。多分、話すことなんてないのだろう。だから、会わない方がいいのかもしれない。

　それは全盛期に引退して二度とカムバックしないかつてのアイドルがいつまでも記憶の中で美しいままで、引退したもののやはり活動の場を芸能界に求めて戻ってきた人は記憶の中でも徐々に容姿が劣化していくのと同じこと。もちろんいい歳の取り方をするケースもあるが、逆の場合もある。それに対して記憶の中だけに生き続ける人は、いつまでも変わらないどころか、却って美化されたりもする。

　息子を保育園に送り迎えなどしていると、当然のように保育士の先生ともひとことふたこと言葉を交わす。20代半ばくらいだろうか。息子のことを可愛がってくれる。ありがたいことだ。僕にだって保育園時代があって、僕が3歳の時に25歳だった先生は、僕が51歳の今は73歳ということになる。もしも会いに行くことがあったなら、可愛がってくれるだろうか。いや、そんなことはないな。懐かしく思ってくれることはあっても、可愛がってくれるわけはない。それどころか、現実には覚えてさえいない可能性の方が高いだろう。ええ、僕だってあの頃の保育士の先生のことなんてぼんやりとしか覚えていないのだから。

　先日、友人からいろいろな相談を受けた。「こんなこと話せるのは大島くらいなんだよ」といって、話をしてくれた。聞いてやるくらいしか出来ることはないのだが、その聞いてやるをするためには、コイツには話してもいいよなと思ってもらえなければならない。そう思われているとしたら、ありがたいことだ。聞いてやるくらいしかできないけれど、せいぜい聞いてやろうと思う。思えば、僕はそういう感じに思われることが多いらしい。やたらと愚痴を聞かされる。学生時代にも、社会人になってからも、今思えば鬱になった友人2人から相談を受けたことがある。特徴としては2mもない距離で話しているのに彼の視線は僕の後方30mくらい先を見ている感じ。それでも、淡々と話を聞くし、彼の話が途切れれば僕の方から他愛もないことを喋る。それでその場はなんとか収まる。そんなんで良かったのかなあ。2人とも、その後失踪してしまった。他に何か出来たことがあったんじゃないかなあとは思うけれど、じゃあ何が出来たんだと自問すると、答えは出てこない。

　息子にも友達がいるようで、保育園のお友達のことを時々話してくれる。先日近くのショッピングセンターに行ったとき、同級生が息子を発見して駆け寄ってきてくれた。ありがたいことだ。そういう3歳児の友情というのは、これからどうなっていくのだろうか。自分のことでいえば、保育園時代からの友人で今もつながっているのは1人だけだ。ほとんどが同じ小学校に行き、同じ中学校に行ったので、知り合いは沢山いる。でもつながっているのは1人だけだ。もちろん、みつながくんではない。インターネットを25歳過ぎで体験した僕の時代と、生まれた時からネットが当たり前の社会に生きる息子では、友人関係の維持というものも大きく違ってくるのだろう。では、高校時代以降の友人とたくさんfacebookでつながっていることが自分の幸せにとってどう寄与しているのかというと、それはそれで絶対的幸福とばかりはいえないので、友人関係をずっと維持できることが幸せと断言するつもりもないのだけれども。

　それに、友人関係が豊かだからといって、本当に幸せな世の中がこれから来るとも限らないのだけれども。
　
　では、僕の好きな名言をひとつ。

　「空気と光と、そして友達の愛。これだけが残っていれば、気を落とすことはない。」
　　　　　　　　　（ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ。）

　そう、友達がいれば、どんな状況になっても気を落とすことはないのです、多分。