今日のmusipl.comでのレビューはLILI LIMITの『A Short Film』。レビューは一気に少しだけ。そして万人に伝わるような、想いを薄めた全方位的なもの。

　だからここではちょっとだけ長めに、補足的に。

　映像にアテレコをするという映像。昔の映画のように、波の音を小豆で再現するような、そんなアテレコ。今の機器なら映像にまつわる音などすべてくまなく収録するし、だからこんな作業のなんと無駄なことか。無意味なことか。

　だが、では、最新の機器で撮られた映像と音がリアルをそのまま再現してくれるのかというと、そんなことはまったく無い。全然ない。自分がその場で感じたリアルを映像が再現してくれないということは誰でも感じたことがあるだろう。そのギャップは一体何なのだろうか。その場にいて体感した自分。その気持ちを感情を映像を見た人は感じるのだろうか、いや感じないよなというもどかしさ。それは当たり前だが、では自分がその映像を見た時に自分がそのリアルを完全に思い出せるのかというと、それもまた無理で、時間が経てばそのギャップはさらに深まる。

　小さい頃に自分が祖父と手をつないでいる写真がある。父方の祖父は僕が生まれた頃には既に死んでおり、だから母方の祖父だけが僕にとっての祖父だ。その祖父の記憶は、僕にとってはその七五三の神社で祖父に手をつながれているその姿だ。僕が高校生の時に他界した祖父だから、もちろんいろいろな表情は記憶の片隅にある。だが、写真として残っているのはその一枚だけであり、祖父を思い出そうとするとその写真の立ち姿を寄り代にして近寄る以外にもはや方法がない。

　今は写真もデジタルとなり、ほとんどコストをかけること無く何枚も撮ることができる。スマホでぴょぴょっと撮ってSNSで世界中に公開なんて時代だ。息子の写真は毎日毎日たくさん撮影される。彼にとっての祖父が、祖母が、父が、母が、亡くなっていった後に思い出すための寄り代はたくさんある。そこから浮き彫りになる大切な人の記憶とはどういうものだろうか。そして、それは真実なのだろうか。

　考えると、写真や映像として残っているものは、やはりリアルではない。その場にいて空気や温度を共有した人が現場で感じたものが写真や映像に残るのかというと否である。だが、リアルなそれが消えてしまったとき、残されるのは写真や映像でしかなく、だから、やはりそこにすがるしかないのではないだろうか。

　LILI LIMITの『A Short Film』で描かれる、奇妙なアテレコはそういうものではないかなあと思う。実際に残っている音など、既にリアルではなく、リアルではない音や映像をいくら眺めてみたところで、その時のリアルも、映っている誰かの体温も戻っては来ない。戻っては来ないリアルを感じたくて、見る人は脳内でアテレコをするのだ。寄り代としての映像や音を一旦排除して、自分が覚えているはずの、記憶と温度と空気とをアテレコしていく。MVではそういう記憶や温度のアテレコを映像化することが難しく、だから音を充てていくという作業で表現しているのではないだろうか。

　スクリーンの中に、生きている僕らは入っていくことなどは出来やしなくて。

　いくらアテレコをしても実際の音がそのまま再現される訳もなく。しかしそれでも自分の中にだけ在る音をアテレコしていく以外にギャップを埋める方法は存在していないという、ひたすらに虚しい作業性が、永遠に美しい「人の哀しさ」を表現しているように思えて仕方ない。

　あなたに会いたい気持ちはいつの日も
　優しい景色を見ると出てきてさ
　僕を困らせる
　だけど心はなぜだか温かく
　やわらかなその日射しが入って
　今はもう悲しみは取れたんだ
　だけどいまだに名前を呼んでしまって
　　　　　『A Short Film』