昨日の国会で高市早苗法務大臣が「放送局が「政治的に公平であること」と定めた放送法の違反を繰り返した場合、電波法に基づき電波停止を命じる可能性に言及した。「行政が何度要請しても、全く改善しない放送局に何の対応もしないとは約束できない。将来にわたり可能性が全くないとは言えない」と述べた」という件が話題になっているようだ。

この発言は質問を受けてのものであり、この質問をした側の意図を考えると、失言を誘発したいという思惑があったのではないかと思われる。大臣として可能性のことを問われれば「絶対にあり得ません、やりません」とは言えない。ありませんと言った瞬間に、その根拠となっている法律を立法機関を無視して越権で否定するようなものだからだ。なのでここで「将来にわたり可能性がまったくないとは言えない」と答弁したのは、冷静に考えてみれば至極真っ当な回答だったと僕は思う。

ただ、高市大臣が所属する現政権を背景にこの答弁をすると、多くの人は言論統制という危険性を反射的に思い浮かべるのも理解できる。政権支持の人からすれば「何がおかしいの？」と言うのだろうけれど、総理大臣が自ら各大手メディアのトップたちと会食を繰り返し、その結果なのかどうかわからないけれどもことあるごとに総理大臣会見が頻繁に流され、国会中継さえテレビでは流さないことも多いという状況で、メディアは完全に丸め込まれていると感じている人は少なくないはず。

そういう状況で、権限を持っている大臣がこういう発言をすると、メディアがさらに萎縮するのは間違いない。萎縮しないと思う方がよほどネジが抜けている。メディアは強制によって報道を止めるのではなく、斟酌して自粛するのだ。電波停止などという言葉が所管大臣の口から出てきて、なぜ萎縮もせず斟酌もしないと考えられるだろうか。

そう考えると、質問した野党議員は大臣の失言を誘発しようとして、今回失言のように話題になっていることで「やったぞ」と思っているのかもしれないが、立場上「可能性は絶対にない」とは言えない人に公的な場でそれを言わせることで、メディアが萎縮して政権寄りの報道にシフトする可能性ということを考えれば、愚かな質問をしたものだなあと思う。それは、自分たちの首を締める質問そのものだと、事前に気づかなかったのだろうか。