年末の最大のニュースはカルロスゴーンの国外脱出だっただろう。この件で各種の評論が出ているが、個人的に得心したのは「もしも自分が中国の裁判で裁かれるとしたら、全力で逃亡すると思う」という知人の感想だった。

日本の司法プロセスの中で動いている人が海外に逃げたから、取り戻したいよというのはひとつの意見だが、じゃあ日本がアルベルト・フジモリをペルーからの要請に基づいて犯罪人として引き渡したのか。外交上のプロセスで一時帰国した拉致被害者を北朝鮮に戻したのか（安倍晋三は戻すべきと主張したらしいが）。中国でスパイ容疑をかけられた日本人はスパイとして中国で裁かれるのがいいのか。東南アジアの空港で持ち物に麻薬を入れられたことで逮捕されて問答無用で死刑にされるのがいいのか。

これには日本の司法制度を個々人がどのくらい信用しているのかということが影響するのだろう。もうすぐ民主党が政権を奪取するだろうと予想されていた時期に民主党代表に嫌疑をかけ、総理大臣になる可能性を阻止した検察。モリカケ問題では一切動かなかった検察。これを信用できるのかどうなのか。先日は裁判員制度で死刑が宣告された事件が最高裁まで行ってひっくり返って。その件の裁判員が「よくわからなかったけれど死刑に入れた」と言っていた。こういうことが現実に起こっている日本の司法を信用できるのか。ゴーン氏の件でいえば西川氏が一緒に決裁しているのになぜ逮捕されないのか。それを考えると検察がグルになって不公平な取扱いをやっていると不信に陥ってもまったく不思議はない。

だから司法を無視していいということではないだろう。だが当事者になり、国籍のない異国でその司法制度の下で晩年の貴重な時間を不自由なままで過ごすのがいいのか、それとも何らかの可能性があるならそこから脱出して自由を回復するのがいいのか。例えば戦後の闇市で物を買ったり売ったりするのは違法だったわけで、それでも人が生きるためにその違法状態を承知で物を買ったりしていて。それを善しとしない警察が闇市を否定して家族が餓死したという話もあって。法に殉ずるのは美しいけれども、法に殉ずるのはアホだという意見もあって、どちらが正しいのかは本当によくわからない。

もちろん、司法プロセスの過程にある人は推定無罪の原則で取扱わなければならない。それがまったく通用しないこの国で被告として過ごすのは本当につらいだろうと思う。そして、仮に裁判をしたとして、その結果無罪になったとした場合、裁判に付き合わされた期間の補償をどの程度されるのだろうかということを考えると、きっと何も補償されないわけで、それを考えると他国の人が「つきあってられないや」と考えるのは本当に自然で、逃げ出せる力と能力を持っている人なら、逃げ出してしまうこともまったく変なことではないだろうという気がする。