メンターを作る、という。語学習得のキモだそうだ。自分が習得中の語学で話をして、その使い方を誤っていたら指摘して直してくれる。それを随時やってくれる人を探せという。最近TEDという英語でのプレゼンテーションをやってる映像をたくさん見てて、その中で多言語習得について語ってるプレゼンで言っていたこと。なるほどな、そんな人が身近にいたら語学習得も捗るよな。でも、どこにそんな人がいるんだ？ ただただ与えてくれるだけみたいなこっち側にだけ都合が良い人。その言語のネイティブとお付き合いすればいい、一緒に暮らして毎日その言語で話せばいい。それはそうだろう。でもそんなの本末転倒だ。語学習得した後はどうするのだ。そんな都合のいい話が良い訳がない。たまたま恋に落ちた人がそういう言語のネイティブで、結果として語学も必要に迫られて習得できてしまったということはあっていい。だが語学習得が目的の人がその目的のためにそういう目的言語のネイティブと付き合うとか、おかしいだろう。

かくしてメンターもなく語学習得に取り組む。国家試験受験のためにこの1年ほど英語に取り組んできて、英語でのガイドの仕事を時々やるようになり2時間くらい京都を説明しながらネイティブと会話するという機会を頻繁に得て。TEDのプレゼンを6割方理解できるようになって。メンター無しにここまで来たぞという自負はあるが、もしもメンターとやらが身近にいて、わからない発音やわからない単語を逐次教えてくれたらどんなにか習得スピードも上がるよなあと感じる。

それ、結局親の役割なんだろうという気もする。

7歳の息子と日々過ごして、彼は図鑑が大好きでルビ付きの図鑑を飽きずに毎日眺めている。昨春に小学生になってからは国語の授業でいろいろと漢字を習ってくる。書き順があるということを学校で初めて知ったらしい。だが既に息子はそういう漢字があることも読み方も知っていた。主に親との会話からだと思う。僕も妻もよく話す方だ。そのおしゃべり好きな親との生活でたくさんの日本語を耳にする。親は子供に忖度することなく難しそうな言葉も使う。まるで僕らがTEDを初めて観た時のような容赦のなさで。聞かれれば意味も説明するが、聞かれなければ説明もなく話す。つい先日、誰かの歌をテレビで見てて、「まちという言葉にはいろいろな漢字があるんやね」と言った。歌詞の字幕に「街」が出てきて驚いたそうだ。「町」は知ってたが、「街」は知らなかったらしい。その場でその違いを教えてあげた。メンターだ。僕は息子のメンターだったんだと初めて理解した。

親が話し好きな場合もあれば、寡黙な場合もある。言葉について深く知ってる場合もあればそんなに知らない場合もある。それでも子供は親をメンターにするしかない。もちろん親と一緒に暮らせない場合もある。そんな時はどうしたらいいんだろう。周囲に優しい大人が寄り添ってくれればまだいいが、優しい大人がいない場合はどうしたらいいんだろう。メンター無き成長って、どうなんだろうか。

言葉だけじゃなくて、あらゆる知識が子供に迫ってくる。そのすべての知識を親が知っているわけではない。そういう時にはその知識についてのメンターが新たに必要なのだろう。ではどこで。中学で理科に目覚めた子供が中学の理科教師にいろいろと教えてもらえばいいのか。そこに知識の限界はあるだろうし、教師が課外で教えてあげられる時間的な限界もある。

そう考えると、Googleはあらゆることへのメンターなのだろうと最近思う。ネットで調べる知識には正確性に欠けるという指摘がよくされる。それでも、確信に辿り着けなかったとしてもおおよその理解に至る最短のプロセスは提供してくれる。そもそもメンターとして子供に接する親の知識の正確性はいかほどかと考えれば、ネットに存在している知識の正確性は結構いい線いっているのではないだろうか。

そんなことを考えながら、この1年くらい英語を独学で勉強してきた。駅前留学などしてられるか。時間も金もないのだから。そんな時にスマホは最高だ。普段から電子辞書を持ち歩くのはかったるいが、スマホは常時持ち歩く。それで単語を調べるし、最近はGoogleで調べると発音まで教えてくれる。最高だ。日本人がリスニング弱いとずっと言われてきたけれど、それはちゃんとした発音に手軽に接する機会が少なかったからだと思う。しかし今はそうやって単語を調べたら発音まで教えてくれる。ぼくらの子供時代は辞書を引いてそこにある発音記号を眺めるしかなかった。その発音記号がどんな発音を意味しているのかについてまできちんと教えてもらえてなかったので、なんとなくでしか把握できなかった。それが、スマホで発音を知ることができる。ネイティブの発音を知りたくても、映画を観るのがいいとか言われて、でも当時映画は映画館で見るもので、お金がかかる。テレビの映画は吹き替えだし。ネイティブの発音に慣れるほどに映画を字幕で見るには、レンタルビデオが普及するのを待たなければいけなかった。中学の英語の授業で日本語教師が喋る英語で学んでて、発音を良くするとか現実的には無理だ。しかし今はDVDの映画を観ればいいし、英語字幕で英語音声で観ることだってできる。TEDトークもアプリを使えば日本語字幕と英語字幕を同時に表示してくれる。便利だ。通信費以外無料だし。別に親をメンターにしなくても、外国語ネイティブの人と恋愛しなくても、大丈夫。こういう環境が整ってくれば、日本人の外国語ももっともっと良くなっていくのだろうか。それとも、筆記試験重視の傾向によって、やっぱり会話は上手くならないのだろうか。